世田谷パブリックシアター、音楽事業部、生活工房、せたがや国際交流センター、世田谷美術館、世田谷文学館が区内それぞれの拠点で、独自性と創造性に富んだプログラムを展開しています。芸術の輪を広げる活動、次世代を育む活動、地域文化を創造する活動など多彩な取り組みをご紹介します。
第7回せたがやバンドバトル決勝大会
2019/04/12更新
2019年2月17日(日) 世田谷区民会館
人生、ここまで来れたのって、きっとバンドのおかげじゃない?
晴れやかな笑顔、悔しさをにじませた顔・・・・・。グランプリ発表の会場に集まるさまざまな思いのバンドマンたち。仕事の合間に練習を重ねた成果を、この決勝大会にぶつけて熱くならないわけがない。とはいえ、各バンドの演奏レベルは高く、厳しくも温かい審査員の講評を、真剣に頷きながら聞く出場者たちは、充実感にあふれ、少年のようでもありました。
■熾烈なライブハウス予選
昨年夏より始まったCDによる音源審査、そして下北沢、三軒茶屋のライブハウスで行われたライブ予選。これが本当におもしろい。ハードロック、ジャズ、弾き語り、歌のないインストゥルメンタル等、ジャンルもさまざま。家族でほっこり、尖ったオヤジ、枠にはまらないバンドの数々が、ライトを浴びながら白熱したステージを披露する。スタッフによる審査も熱が入るのは言うまでもなく、出場者同士が盛り上げつつも火花を散らす姿が、これぞバンドバトル!
■バンドバトルの目的
しかしながら、この「せたがやバンドバトル」の真の目的は、優れたバンドを見い出すことではありません。そもそもせたおん(音楽事業部)主催の公演にやや縁遠い、働き盛りの世代に、地域のイベントに参加してもらおうと立ち上げた企画。
毎回、応募動機の中には「応募のために職場の仲間とバンドを組んだ」「20年ぶりに昔の仲間が集まり、バンドを再結成した」「バンド活動を通して、地元の人と交流したい」というものが数多くあります。バンド活動、すなわち音楽が、人と人とをつなぐもの、そして人を地域につなぐものとなることが目的なのです。予選で戦ったバンドとの交流ができ、その後一緒にライブをしたバンドもあるそう。こういった出場者同士の交流の他に、区内のライブハウスや商店街、協賛各社の応援や協力がイベントを支えています。
これからもせたがやバンドバトルを通して、地域の交流を深め、人々の新たなつながりを作っていきたいという想いを、少しずつ、そして着実に広めていきたいと思っています。 [文:黒田たま紀(公演制作担当)] [撮影:中西多惠子]
生活工房 『ミャオ族の刺繍と暮らし展』より
2018/12/09更新
クライム・エブリ・マウンテン vol.1<2017年11月11日〜12月10日展示>
山々に踊る、家族のためにつくられた美しき衣装
生活工房では昨年より、世界各地の山岳地に住む人々の暮らしを紹介していくシリーズ展示「クライム・エブリ・マウンテン」を始動しました。第1弾として取り上げたのは、中国西南部・貴州省の山岳地帯に多く暮らす、ミャオ族(苗族)です。
実はこの展覧会の始まった時期(11月中旬)は、ミャオ族の暦で新年を迎える頃。ミャオ族の村々では、棚田の稲刈りの終わった地域から順に、お正月の準備をするのです。その他にもたくさんある祭礼や、農耕の時節などミャオ族の一年を紹介しながら、「苗族刺繍博物館」(常滑市)からお借りした美しい民族衣装など60点を展示しました。
ミャオ族の衣装は、驚異的に緻密で美しい刺繍で知られています。しかしそれは、裕福な人たちがだけが着るものではありません。男女の出会いの場でもある祭りの際に着て美しく映えるよう、少女たちが競い合って作ったり、母が娘のために作ったりしたものです。なかでもとくに細かな詩集を施すのは、幼子のためのもの。赤ちゃんの背負い帯は、「布目から魔が入る」という言い伝えもあって、下の布地が見えないほどにびっしりと刺繍で埋め尽くします。その厚みを持った刺繍を見ていると、環境の厳しい山地で幼い命を守るために、ひと針ひと針に祈りを込める母の無償の愛が伝わってきます。
展覧会の最中、よく来場者からこんな質問を受けました。「これだけの刺繍をするのに、どのくらい時間がかかったのですか?」──さて、いったいどれほどの時間がかかったのか・・・。自給自足の生活の中では、おそらく丸一日刺繍をしている、などということはないでしょう。野良しごとの合間合間に、懐から小さな布をとりだしては、針を刺す。その布片を服に縫いとめて、このような重厚な衣装が出来上がるのです。さらに糸の材料(綿、絹)を育て、紡ぎ、染め、織るのも自身でやっていることを考えると、この服1点に凝縮された時間の途方もなさを感じます。
展覧会場で来場者が目にしていたのは、刺繍の中に確かに縫い込まれた、ミャオ族の人びとの「祈り」であり、「時間」であったのかもしれません──。「クライム・エブリ・マウンテン」シリーズ第2弾は、2018年9―10月に「漆がつなぐ、アジアの山々」展と題して、中国から東南アジアまで山地帯で作られている多種多様な漆器を取り上げました。さあ、第3弾はどの山に登ることになるのでしょうか。
[文:生活工房 竹田由美] [撮影:田中由起子]
劇場で過ごす夏休み最後の一日
2018/12/07更新
世田谷パブリックシアター ワークショップ
『みんなよりちょっと先輩の話聞いてみない?』
世田谷区内の中学校2018年の夏休み最終日である9月2日に、世田谷パブリックシアターの稽古場で行われた『劇場ですごす夏休み最後の一日「みんなよりちょっと先輩の話聞いてみない?」』に劇場スタッフのひとりとして参加しました。
学校生活や日常の中で生きづらさを感じている中学生と、同じように中学時代に生きづらさを感じたことがある先輩が、その経験を話し、そのエピソードや感じたことの中からでてきた言葉でカルタの読み札・絵札をつくり遊んでみよう!という企画です。
当日は約20名の中学生のみなさんが参加、それから先輩役の大学生3名と進行役の3名、急遽“プチ先輩”として加わった高校生2名、世田谷パブリックシアターのスタッフ数名が同じ時間を過ごしました。
まず最初にゲームや他己紹介を行いお互いのことを少し知った後、床に座布団を敷いて、寝転んだりお菓子を食べたりしながら先輩の話を聞きました。そして、カルタをつくる前に設けられたのが質問タイムです。はじめこそ先輩に対する質問が中心でしたが、徐々にプチ先輩の高校生や中学生同士での意見交換もはじまり、進行役や劇場のスタッフ、先輩と中学生のみんなで話し合う場へと変化していきました。その話し合いからでてきた言葉や生まれた言葉を使って参加者それぞれがつくったカルタは、学校を卒業してしまった私にとっても、日常で感じている不安や生きづらさに寄り添い、吹き飛ばしてくれるような読み札の41組のカルタになりました。
今回は中学生に限定した企画でしたが、世田谷パブリックシアターでは赤ちゃんから大人まで様々な方を対象にした演劇ワークショップを行っています。また、今回のように他の人の話を「聞く」という企画を行うかもしれません。自宅と学校・職場以外の居場所の選択肢のひとつとして、気になる催しがありましたら世田谷パブリックシアターに足を運んでみてください。 [文:世田谷パブリックシアター広報 浅利瑠璃]
に『にんげんは しゃべり方を忘れてしまう』
家にいたとき、一日中人と話すことがなくなり、どうやって声を出すのか忘れてしまって「人って話すの忘れちゃうんだなぁ」と思った。
というエピソードより
の『ノー!というのは難しい・・・!』
続いている関係の中で何かを拒否することには、体力をつかう。
というエピソードより
な『なんとなし 空を見上げて ほっと一息』
犬の散歩中、風が流れる田んぼ道。
ふと空を見上げたら、まだ生きられる気がした。
というエピソードより
世田谷パブリックシアター@ホーム公演
2018/07/31更新
劇場から、地域へ暮らす人たちへ劇を運ぶ ー全14公演を終えて
『チャチャチャのチャーリー 〜さようなら涙くん〜』
脚本・演出:ノゾエ征爾
出演:山本光洋 たにぐちいくこ 井本洋平 田中馨 ノゾエ征爾
劇場へなかなか足を運べないかたがたに、気軽に演劇を楽しんでもらおうと、2010年からはじまった「あっとホーム公演」。9年目を迎えた今年は、新作『チャチャチャのチャーリー 〜さようなら涙くん〜』を、区内の高齢者施設と障害者施設14か所で上演しました。
物語の舞台は、海の向こうの架空の国「ポンピン王国」。なんとその国の人たちは、キューピー魔女によってゼンマイ仕掛けにされていて、ゼンマイを巻き続けないと止まってしまうのでした!たまたま、海で荒波にのまれてその国に流れ着いたあやつり人形チャーリーと鼻デカ弟は、彼らを助けるため、魔女が住む森へと向かいます・・・!
上演時間は35分。そのなかに、冒険あり笑いあり涙あり。さらに、観ている人たちが劇に参加できるようなしかけを盛り込みました。あとで施設の職員さんからは、「一緒に手をつないだり、身体を動かしたり、みなさんが一体感を持って楽しまれていた」「朝から、どんな演目?何をするの?とワクワクされていた」「役者さんのイキイキした演技に引き込まれ、表情がとても明るくなっていた」「歌が苦手な人が一緒に歌っていた」「“観劇を楽しむ”ことは正直、難しいのではと思っていたが、みなさん楽しまれている様子で驚いた」など、うれしい感想をいただきました。
この劇の最後の場面で鼻デカ弟は、この王国に残ってみんなのネジを巻く手伝いをすることを決め、「涙くんさよなら」を歌いながらチャーリーと別れます。その役を演じ、6年間あっとホーム公演で熱演してきてくれた俳優・井本洋平さんも、これが卒業公演でした。公演が終わり、職員さんがマイクをもって観たかたがたに感想をたずねると、井本さんの新たな船出にもらい泣きしたり、「がんばってね」と声をかけるかたも。いつにも増して目がしらが熱くなる公演でした。 [文:あっとホーム公演 制作 小宮山智津子]
2017年も盛りだくさんダッタ 世田谷美術館
2018/05/01更新
改修工事/花森安治の仕事展、エリックカール展
2017年、世田谷美術館は7月から年明けしばらくまで、改修工事のため全館休館した。工事は外壁の検査、補修、洗浄。空調機の交換。館内照明器具のLED化が主たる内容だった。さて、どこがどうかわったかといえば、見た目、そう変化はない。が、これは建物を大切につかい、長く愛していくためのメンテナンスである。LED化の工事でもっとも気をつかったのは、当然、展示室。照明の善し悪しは、展示効果に直結するから、当館の学芸諸氏も経験値と想像力をフル活動させた。その結果=成果は、2018年1月13日開幕の「ボストン美術館パリジェンヌ展」の会場に反映した。作品の保全上も、また鑑賞者の視覚的満足度も大いに向上させることができたと思う。
さて、2017年の企画展は改修工事までに「花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼」と「エリック・カール展」を開催した。花森安治は『暮しの手帖』の敏腕編集長として鳴らした人だ。戦時下、人々の当たり前の暮らしが崩壊する現実を目の当たりにし、結果、ああした実のある暮らしに深く寄り添った生活雑誌を創った。さまざまな縁を経て、彼が描いた『暮しの手帖』の表紙原画や関連資料が当館に収蔵されており、これが本展開催の原動力となった。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で大活躍した花山伊佐次。その花山を演じた唐沢寿明さんは、軽妙だけど力強い演技力で、花森安治=突飛なところのある熱血漢で正義感満載というイメージを世に流布した。そのせいか、展覧会の来場者はじつに多彩であり、人それぞれに花森の仕事を吟味していただけたものと思う。閉幕直前の4月6日には皇后陛下の行啓をいただき、このことは本展の記憶となった。
ついで「エリック・カール展」。じつは当館が初めて試みた、“ちっちゃいお子さまがたくさんかな”的展覧会だった。開幕まで約2年という大急ぎの準備だったが、じつに13万人を超える来場者を得た。絵本の原画を多々並べるエリック・カール展は、これまでにいくらもあったが、本展の肝は、エリックのアーティストとしての側面に光を当てることだった。豊かな創造性といえば平たくなるが、自由な造形力と闊達な色使いの魅力に溢れる作品が会場を彩った。そして御大・エリックも3日間にわたって当館に足を運んでくれた。会場ではお客様が「ホンモノ?ホンモノ?エ!」と驚きながら手を振り、エリックもこれにビッグスマイルで応えるという素敵な光景とあいなった。それにせよ、1968年の開館以来、これほど多くのベビーカーが館の内外に集まったことはない。断じてない。観覧料のかからないお子様までを数えれば、優に15万人を超える人たちが行き来する、セタビ・2017・梅雨空もふきとばす賑わいであった。 [橋本善八(世田谷美術館 学芸部長)]