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アートルポ

世田谷パブリックシアター、音楽事業部、生活工房、せたがや国際交流センター、世田谷美術館、世田谷文学館が区内それぞれの拠点で、独自性と創造性に富んだプログラムを展開しています。芸術の輪を広げる活動、次世代を育む活動、地域文化を創造する活動など多彩な取り組みをご紹介します。

「作品のない展示室」 世田谷美術館

2020/09/09更新

「作品のない展示室」 世田谷美術館
≪2020年7月4日〜8月27日開催≫       
「作品のない展示室」は、窓越しの眺めをはじめ公園美術館としての建物そのものの美しさを見てもらうという企画です。
いつもとは異なる展示室の開放的な空間にSNSや口コミで評判となり、約2か月の開催期間に来場者は1万6千人を超えました。

 新型コロナウイルスの影響で、多くの美術館と同じく世田谷美術館も予定していた企画展がやむなく中止となりました。予定が空いた期間の展示室をどう活かすかを職員で話し合う中で、展示室の空間や美術館の建物に親しんでもらう機会にと「作品のない展示室」を企画し、その開催を決めました。

 世田谷美術館は1986年(昭和61年)の開館。「健康な建築」を唱え、自然界に息づく秩序やかたちを建物に取入れた建築で知られ、また吹上御所の設計も担当した、建築家・内井昭蔵(1933年〜2002年)の設計です。砧公園の豊かな自然と調和した開放的な空間に、公園の緑に溶け込むよう窓の多いつくりになっていますが、作品保護のため通常は展示室の窓はふさがれています。

 「作品のない展示室」では、展示室の約千平方メートルという空間を感じられるように、可動式の仕切りは全て取り払い、空の展示ケースもあえてそのままに見せました。そして、窓のガラス越しに緑の深まった中庭やテラス、クヌギの大木を眺めることができるようにしました。がらんとした展示室の空間と、窓枠で切り取られた景色と建物の美しさを楽しみながら、ベンチに腰掛けたり、写真を撮ったりと思い思いに過ごす来場者の姿が見受けられました。
 SNS上の感想には、「大きな窓から見える景色が絵画のよう」「心の視野が広がる時間」「この美術館そのものが作品」「心に余裕をもたらす素敵な空間」「先の見えない昨今の人々の気持ちを代弁するかのような展示だが、その空白に射し込む光には強く魅かれた」等、職員の予想を超える好評が多く寄せられました。新聞各紙でも展示室の写真とともに大きく取り上げられ、絶えず幅広い年齢層の来場がありました。
 副館長の橋本善八は、内井昭蔵の建築思想である自然との調和について、美術館の建物の内側から開け放すことで実感してもらえたのではないかと話しています。

 ギャラリーの一室では、コロナによる中止の企画展も含め、開館以来の195の企画展のポスターを映写機で写し振り返りました。企画展に合わせ館内で行ってきたダンスパフォーマンスの記録映像も流し、世田谷美術館の多彩な活動を紹介する機会にもなりました。8月27日には「作品のない展示室」クロージング・プロジェクトとして、パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」を行い、その様子は世田谷美術館ホームページの世田美チャンネルで公開します。
詳しくは、こちらをご覧ください。

展示室の様子


世田谷パブリックシアター@ホーム公演

2020/04/01更新

世田谷パブリックシアター@ホーム公演
11年目に突入する
談:小宮山智津子(担当プロデューサー)  取材・構成:川添史子

――世田谷区内の特別養護老人ホームなどで芝居を上演する《世田谷パブリックシアター@ホーム公演》が今年11年目を迎えます。この事業がスタートしたそもそもの経緯から教えてください

 世田谷パブリックシアター開場準備室から劇場の業務に携わってきましたが、初代芸術監督の佐藤信さんの方針でもあり、スタート時から自分でも取り組みたかったのが、演劇に興味がある方だけでなく、劇場に来たことがない方たちと劇場をつなぐために何ができるかでした。例えば2003年から2011年に実施した《世田谷パブリックシアター@スクール公演》では、オリジナルの参加体験型の芝居を俳優たちとつくって世田谷区の小・中学校で上演し、子どもたちの反応もとても良かった。この手応えを踏まえて次の展開として考えたのが、劇場に足を運べない高齢者の方たちへ向けた《@ホーム公演》で、2009年に企画案をまとめ、2010年に5つの施設で試演、本格的に始動したのは2011年でした。

――まず試演されたんですね。

 はい。試演段階で施設の方たちが「いつもは寝てしまう人、途中で立ってしまう人が最後まで観ていた」「見たことのない表情を浮かべていた」と、まず驚いてくださったんです。外部から人がやって来て、手が届くような場所でお芝居をする・・・・・アートを介すると、日常にはないことが可能になるんですよね。あの時、各施設の皆様が門戸を開いてくださったことで実現した事業だと感じます。

――初年度から関わるノゾエ征爾(脚本・演出・出演)さんは、ご自身の舞台作品に《@ホーム公演》での体験が生きていると話していらっしゃいます。現在では高齢者の大群集劇なども手がけていますし、アーティストへの影響も生んだ事業です。

 アーティストに地域に根ざした新たな機会をつくり出すのは、公共劇場の企画制作者だからこそできること。ノゾエさんにとっても一つのチャレンジだったと思いますし、現在まで取り組む熱量に変化はありません。一回一回が真剣勝負であるという点では俳優たちにとっても通常の舞台と変わりませんし、彼らが持つ技術と集中力は場の空気を一瞬で非日常に変えられる。これは年齢に関係なく理屈なしに伝わりますし、彼らの表現に一途なところを常に信頼しています。

――10年間の変化、今後の目標について教えてください。

初年度の公演で、俳優が《ふるさと》を歌ったら、皆さんが一緒に口ずさんでくださった瞬間は印象的でしたね。それ以来ノゾエさんも必ず全員で歌える場面を入れています。施設職員さんの出演箇所もあるのですが、皆さんの演技が上手くなってきたのも変化の一つ(笑)。「今年も世田谷パブリックシアターさんが来ましたよ〜」と、各施設の皆さんの日常会話に劇場名が自然と出てくるのがうれしいですね。4、5年前からは障害者施設からも申し込みが入るようになり、自然な形で広がりが生まれています。とはいえ、やるべきことは劇場公演と同様、「興味を持っていただける作品をつくる」こと。初心に返り、気を引き締めて取り組んでいきます。
                                     

[撮影:梅澤美幸]

【お知らせ】
6月に上演を予定していた「あっとホーム公演」は、新型コロナウイルス感染症の拡散防止のため、本年度の公演を中止することといたしました。
公演を楽しみにしてくださっていた施設の利用者さま、職員のみなさまには大変申し訳ありません。
一日も早い収束を祈るとともに、また「あっとホーム公演」でお会いできる日を楽しみにしています
世田谷パブリックシアターHP@ホーム公演